偵察用?気象研究用?気象観測用気球について元気象観測のプロとして解説します

2024年2月2日アメリカ国防総省が中国から飛来した偵察用の気球がアメリカ上空高度約18000m(60,000〜65,000フィート)を飛行していることを発表し、同月4日14時39分アメリカ空軍のF-22戦闘機がサイドワインダー対空ミサイルで撃墜したと一連の事件の報道がアメリカをはじめ日本だけでなく世界的に報道されました。

偵察用とアメリカ国防総省が指摘しても、中国側は民間の気象研究用の気球が誤ってアメリカに侵入したものと公式発表しています。

日本のSNSやさまざまなニュースコメントで「気象観測ラジオゾンデの気球だ」と書かれている物が多く散見されました。

著名人でもほぼ詳しく触れることなくアメリカのニュースの引用ばかりだったので、偵察用か気象用かははっきりとは言っていません。

私は海上自衛隊の気象観測を主とした職種だったので、高層気象観測もどのような器材や測器を使うか知識と経験があるので解説します。

気象観測で気球を使う「高層気象観測(GPSゾンデ観測)」

この画像は気象庁高層気象台のサイトより引用しています。

気象庁高層気象台のサイトのリンク「気球を用いた高層大気の観測について」のページです

https://www.jma-net.go.jp/kousou/obs_second_div/about_sonde/about_sonde.html

毎日午前9時と午後9時にスタートする、ラジオゾンデ観測に使われるヘリウムガスを充填した直径5m程度の気球にパラシュートと観測器材を取り付けたものが画像として貼られています。

観測器材自体は観測種別にもよりますが、最大でも800グラムと、それほど大きい訳ではありません。

観測するデータは、気温、露点温度、気圧、そしてGPSにより位置追跡することで高度ごとの風向風速、これらのデータは地上にある追跡用レーダー施設に送信されて観測結果はリアルタイムで地上で知ることができ、1回のすべてのデータは気象専用のネットワークによって全世界向けに発信されるほか、各地のデータを用いて高層気象天気図などに利用されたり、天気予報の初期数値としても活用されます。

日々のニュースで特に冬の時期に聞かれる「高度5000mの−40℃の寒気」はこの高層気象観測で得られたデータの活用例の一つです。

下の画像は観測結果を元に解析描画された300、500hPa高度の天気図です。

気象庁発表AUPQ35高層天気図

気球自体は高度30km程度まで上昇するので、気圧の関係で最終的には直径が10mを超える大きさになるとのことです。

最後は破裂して測器はパラシュートでゆっくり降下するようになっています。

この高層気象観測は全世界で統一された時間に実施されるものです。

この観測データは日々の暮らしの天気予報のための重要なデータでもあり、加えて毎日のように世界中を飛んでいる航空機の安全な運航にも重要なデータです。

ラジオゾンデ以外にも気球を用いた気象観測はありますが、基本的には飛行機が運航している邪魔になることが考えられるので、国際法では事前に気球が飛ぶことを知らせておくルールがあります。

気象観測用なら事前に全世界向けに周知が必要

全世界向けに航空機の安全運航のために例え気象観測目的の気球でもNOTAM(ノータム)と呼ばれる情報を発行する必要があります。

NOTAMとは

『Notice to Airmen:ノータムのことで、航空保安諸施設、業務、方式及び航空に危険をおよぼすもの等の設定、状態又は変更に関する情報で、書面による航空情報では時宜を得た提供が不可能な場合に通信回線(CADIN及びAFTN)により配布されるもの。』(国土交通省用語ページより抜粋)

https://www.mlit.go.jp/yougo/e-n.html

航空機運航、空の安全では墜落しなくても重大事故につながる可能性あり

日本国内でも2020年宮城県上空に見られ、当時は国籍不明ですぐに消えたので何の対処もされませんでしたが、万が一の事故でさえ重大インシディデントの航空事故では気球そのものが墜落する可能性は低いから対応しなくても良いという発想は航空機運用の世界からはちょっと信じられない考え方です。

もちろんNOTAM等で事前に気球が気象観測用なので破壊しないでくださいと通知があれば静観するでしょうが、それでも「予想外の進路をとりコントロールできない」となれば航空機の安全確保のため撃墜を視野に入れるでしょう。

航空機の運航で小さいけど見逃せない事象の排除例

自衛隊の飛行場では定期的に滑走路を多くの人間で一斉に歩き小さな金属ごみを拾う作業が行われます。

これは小さな金属片でも航空機エンジンの吸気側から吸い込むとエンジンにダメージが発生し、飛行中のエンジントラブルを防止するために行う作業です。このほかにも様々な事故防止作業が日々行われるぐらい神経を使っています。

本当に気象用か?

翻って、アメリカで偵察用とされた気球の直径はバス3台分とのことですが、ニュースソースがアメリカのものであればアメリカサイズのバスとなるでしょう。調べてみるとアメリカの市内用バスの長さが14〜15m程度なのでこの気球は直径だけなら45m程度となる様です。

中国国内においても外国の航空機が飛行するはずなので、一応NOTAMを発行しておかなければなりません。

しかしどうやらNOTAMを発行していないため「誤ってアメリカに侵入」との発表は怪しいと思われて仕方がないでしょう。

撃墜された気球の残骸や装置は米海軍により改修されたそうで今後の発表で本当に気象観測様だったかどうか分かってくると思います。

追記2023年2月8日

米海軍を通した発表では高さ60m程度、重さは900kg程度だそうです。高さとあるのは気球+吊り下げられた機械を含むのでこのような表現になっている様です。

おまけ 海上自衛隊気象海洋員の紹介

https://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/details/job/kaijo-kisho-kaiyo.html

海上自衛隊ですが、哨戒機やヘリコプターなどの航空機も保有していますので飛行場が全国にあります。

パイロットはもちろん航空管制官や航空機整備員、そして私の職だった気象観測が職種としてあります。

気象海洋員は、将来的には幹部自衛官となって気象予報士の資格を取ることができるチャンスに恵まれています。

以上です。


ニコンZ50の購入と使用感について/APS-Cにした理由とインプレッション

これまで使ってきた10年前に購入したニコンD60では流石に様々な限界がきて買い替えを考えている中で幾つか候補があったのですが、センサーサイズが同じAPS-CのZ50にしました。

早速、Z50で撮影した画像から

やはり軽くて使いやすいのが一番の驚きです。

そしてファインダーを覗かなくても、ボディのディスプレイでも被写体を写しタッチすることでシャッターを切ることができるので、水面近くで咲いているスイレンに近い高さでカメラ本体を構えて撮影できます。

さらに最近のコンパクト、一眼問わずデジタルカメラ特徴として、PCを使わなくても撮影した写真データをスマホやタブレットにBluetoothやWi-Fiを使って直接送れる事です。

実際に重さを計ってみました。一応比較として同じAPS-C一眼レフのニコンD60の重量も載せておきます。

レンズとストラップ込みの重さの数値としては180gほどZ50が軽くなっています。

大きさの違いもわかると思いますが、やはりZ50コンパクトに仕上がっています。

オートフォーカスは速く、モニター用ディスプレイをタッチすることでもシャッターが切れ撮影されるのも驚きです。

Z50はミラーレス一眼のエントリー機には十分でしょう。

そしてZ50は写真だけでなく4K動画の撮影もできるのが10年前の一眼カメラとの大きな違いです。

しかしフルサイズではないので以下はフルサイズとの比較を含めたAPS-Cを選んだ理由、そしてAPS-Cをお勧めする点を解説します。

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自衛隊の教育システム/学校現場が活用できる組織的に教育を行う効率的なやり方

学校の教育現場でのいじめや生徒親子とのさまざまな問題・事件がニュースに頻繁に出てくるのですが、自衛隊での教育システムと比べると問題点のいくつかは解決できるのではないかなと常々感じるので、比較しながら解説していきたいと思います。

自衛隊の基礎教育カリキュラムについて

自衛隊は陸海空で若干期間は違うものの、最初の基礎教育を3〜5ヶ月かけて行います。

この間に基本的な個人・集団行動、警備術、戦闘術、応急手当て、装備品の取り扱い、体育などの教育を受けつつ、自衛隊で勤務する上で必要な躾要素を身につけていくようになります。

座学はほぼ同じ

教育自体は学校教育とほぼ同じようなタイムスケジュールで1時限50分程度で、日によって違いますが6〜8時限ぐらい

担当教官が教範(教科書テキスト)を元に黒板、ホワイトボード、PCなど使って座学(授業)を進めていきます。 

これらについては課題やテストが定期的に実施されます。

まさに学校の授業と同じですね。

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