手動と自動

「実はMT車買いました」

知人が車を買い替えたそうで、今時めずらしくMT(マニュアルトランスミッション)。

AT(オートトランスミッション)の車の普及率が95%以上の日本でシフトチェンジに手間がかかる普通車MTは貴重です。その知人はMTの醍醐味の一つとして2速ぐらいで高回転まで回す快感について楽しそうに説明していました。

この話を聞きながら、マニュアル=手動、オート=自動について航空機向け気象観測で気になったことをいくつか思い出しました。

その一つは雲の高さの観測について。

正しくは雲底高度といって文字通り雲の下の部分の高さで単位はフィート(ft)です。私が気象観測し始めた1990年代は実際に飛んでいる航空機のパイロットから教えてもらったり、一定速度で上昇する大きな風船を空に放って雲に隠れるまでにかかった時間から雲底高度を測定していました。今は地上から上空に向けてレーダー波を発信し反射で帰ってきたものを自動的に機械が計算して雲底高度を計測する機械(シーロメータ)が発達して正確な値がでます。

昔は手動の観測が主体だったので、リアルタイムな高さはほぼ目視でやっていました。それでも職人気質の先輩達は的確に雲底高度をだしていました。私もそれなりに目視観測ができていました。当時からシーロメータはありましたが、観測に使うにも雨や雪があると精度は極端に悪くなり実用向きではありませんでした。

しかしシーロメータが発達し雨や霧の影響をほぼ受けないものが開発されて目視より信頼が上なので観測指導もシーロメータの値を優先するようになりました。

2000年代後半ぐらい転勤で新しい職場に配属されたばかりの私は、私より1年以上長くその職場にいる若い人に雲底高度を聞いてみると、シーロメータの観測値を表示するディスプレイを見ながら10000ftと報告してきました。

私が窓から外を見てみると明らかにもっと低い雲が見えました。当時の私は若かったのもあり強い口調で「ちゃんと外見たの?10000ftより低い雲あるよ。高さはどれくらい?」と聞くとはその人は答えられませんでした。

自動で観測できるとは言え、このころのシーロメータはあくまで観測機械の直上1点しか計測できないので、目視でみる範囲にある雲全ての雲底高度を計測できるものではありませんでした。

雲は絶えず移動しています。5分前は遠く離れたところにあった雲が頭上にくることもあります。場合によってはダウンバースト等、航空機にとって重大な事故繋がりかねない現象を伴うものも少なくありません。このような事もあるので後輩にはシーロメータの特徴を踏まえて観測するよう指導しました。

逆にシーロメータのおかげでそれまで自分の感覚と慣例で3000ftの高さの雲だと信じていたものが実際はもっと高い高度であることも発見できました。もちろんパイロットにも確認しての結果です。これはこれでより自分の感度を上げることができました。

自動でやってくれる機械は便利だけど、機械を利用するのではなく機械に使われるようになったら見えるものも見えなくなる。

よくこんなことを言っていました。

他には地上天気図については解析をおおむね自動でやっているので気象庁から配信される時間は1時間前後早まりました。

車の話に戻って、今時の車はAT車で便利だけどブレーキとアクセルを間違えるとか、全身とバックを間違えるとか似ているような気がします。メーカーさんも良い加減にトランスミッションの前進とバックを完全に違う場所に付けてしまえば良いのにとも思います。

おまけで、実際に鳥取の田舎で乗っている分ではMT車の新しい車は燃費が悪くありません。CVTと同じくらいです。

AIが発達すればもっと良い方向に変わってくると信じます。

以上です。