お天気とサーファーの物語

「そうそう、この前,

館山の自衛隊に電話したんですよ。雨が降るかどうか、天気のことが聞く必要があって。」

サーフィン終わって海上がりに初めて話しかけたローカルショップにいたサーファーさんからこんな言葉がでました。


そのサーファーさんとは初対面でしたが、ローカルの集まるショップの駐車場に止めていたのでローカルさんだと思って何気に声をかけて話始めたところ、狐につままれるようなやりとりが始まりました。

1990年代後半のいつだったかは忘れてしまいましたが、この会話の1週間前ぐらいのことでした。

朝8時半過ぎ、職場の電話が鳴り、たまたま私が受話器をとってみると電話交換係からでした。

電話交換係の隊員は

「部外(一般の方)から天気のことを聞きたいということで電話が入っています。そちらにつないでも良いでしょうか。」

聞いただけだと天気の何を聞きたいのか分からないので、私は

「つないでください」

と応えました。

繋がった相手は近くの小学校の先生と名乗り

「これから30分後ぐらいの雨はどうなるでしょうか?」

予報担当者は会議で不在のため電話に出られないと伝えると、慌てた様子で

「どうしよう、すぐ知りたいんですが。」

どういう要件で天気が知りたいか尋ねると

「6年生の生徒たちの卒業アルバム用の記念撮影を予定しているんですが、外で撮りたくて。でも雨は降っているし…」

たしかこの日は朝から雨が降ったり止んだりの天候だったのをはっきり憶えています。

この時代は、スマホは当然なく、学校にもインターネット回線は普及していなかったはずです。

予報官は不在、でも先生は慌てている。

私は少し考えて

「あー、えー、小学校あたりは多分30分後ぐらいに止み間が出るかなー。15分間ぐらいは雨降らないなー。あ!すいません!今の独り言ですよ。独り言!」

気象庁の雨雲レーダー画像を電話をしながら確認し見ていると、雨雲はそんな感じの移動をしそうでした。

ナウキャストという手法で現在の雨雲の動きから数十分〜1時間程度先の雨雲の動きを予測する方法です。

先生は急いでいた様子が伺え電話はすぐに切れました。そして私も忙しかった頃もあり、やりとり自体はすぐに忘れてしまいました。


そして話は海上がりに戻ります。

「俺、自衛隊なんですよ。」

サーフィンが終わってからの会話の流れでそう言った時、冒頭の言葉が初めて会ったサーファーの口から出てきました。

私はおや?と思いつつも続けて話を聞くと

「あの時、雨のことを独り言といってた人の通りに晴れたんですよね。驚きましたよ。天気のことに詳しいところが自衛隊にあるから電話しろって先輩の先生から言われてかけたんです。」

それを聞いて私が対応した電話を思い出しました。

「あー、それ多分俺の独り言ですね。あくまで独り言でしたけどね!その感じだと撮影はうまくいったようですね。良かった!」

先生は、上手く撮影できたと言っていました。

生徒にしたら一生に一度かもしれない撮影なんだから、先生も無事に撮影が終わってほっとした様子でした。

それにしてもお互いにすごい偶然で驚きました。なにせ自衛官と先生で別々の職業なのにお互いサーファー。

今、もし同じような問い合わせがあっても答えはしないでしょうし、大体スマホからでもリアルタイムに雨雲の移動予測は見られますから問い合わせもないでしょう。

「今日も良い波でしたね。お疲れ様でした。また海で会いましょう。」

いつも通りのサーファー同士の会話で別れました。

不思議な縁があったな、とふと思い出したので書き留めました。

以上です。