令和2年(2020年)台風10号の進路予想と観測結果、及び被害状況から見えてくるファクトフルネス

(2021年7月23日修正)

『戦後最大級の台風となる』

と令和2年(2020年)台風10号は発生前から台風予想精度の低いECMWFやGFSの予報を元に事前にツイッターで呟いた気象予報士の方もいたため、気象庁の予測が出る前から、多くの人に不安を与えました。

そこで実際の台風の進路を確認しながら何故、不安が煽られたか、なぜそこまで被害が大きくならなかったかを検証していき、最後にファクトフルネスとしてのまとめを書いていきます。

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不安が煽られた理由

テレビのお天気キャスターにも出ていたとする有名な気象予報士の資格を持つ人のアカウントが、ヨーロッパ中期予報センター(以下ECMWF)やアメリカ海洋大気庁(NOAA)の数値予想(以下GFS)の予想を根拠に

8月31日に「欧米の予測データによると9月6~7日ごろに伊勢湾台風など歴史的な勢力で西日本を直撃する進路」と台風が発生していないにも関わらずツイッター上で呟いたことでした

この呟きは瞬く間にリツイート(RT)されたほか、同様に「ECMWFで予報されている、ヤバい!」と気象予報士ではないと思われるアカウントが複数つぶやき、ツイッターの話題のトレンドにもなったと考えられます。

8月31日当時のWindy.comによるECMWFとGFSの予想図のスクショを貼っておきます

引用:Windy.com
引用:Windy.com

『不安は早く広まりやすい』

これはビジネス書「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」や「ATTENTION(アテンション)」にも書いてあることですが、不安やミステリアスなど不確定な事象ほど早くしかも広く情報が伝わりやすいという傾向があることがデータでわかっています。

また、8月30日から9月3日にかけて東シナ海を北上、通過した台風9号もそれなりに勢力が強かったので不安が増したのではないかと感じています。

データを解析した結果、台風10号はそれほどの脅威にならない

  • 台風の進路予想において移動速度が速い
  • 台風9号により海水温が下がっている
  • 日本上空の寒気の流入と台風10号接近日時が重なる
  • ECMWFおよびGFSの台風予想信頼度が低い

まず台風の性質や傾向について(気象予報士試験にはでませんよ)。

台風は移動速度が遅いほど発達することがわかっています。

移動速度が遅いと温かな海上からエネルギー源となる水蒸気と気温の熱(気象学では潜熱と顕熱といいます。)がどんどん供給されるからです。

しかし移動速度が速い場合、特に北半球において北上し気温の低い海域に向かうようであれば気温から受け取れる熱が発達を促すほど十分に得られません。

そして直前に通過した台風9号により気温による熱も水蒸気によるエネルギーも消費された状態になっている海域に進んでも発達が抑えられます。

さらに、実は西から強めの上空の寒気が迫っていたのと、台風9号が温帯低気圧に変わったことで、上空の冷たい空気を台風10号が接近通過する予想日時に日本の上空に流入すると気象庁の数値予報図(気象専門の予想図)から見て取れました。

また経験上、上空の気圧配置を解析した高層天気図と呼ばれる(これも気象専門的な天気図)を見ると近畿、四国に向かう要素が見当たりませんでした。

なによりECMWFやGFSは過去の事例から台風予測だけでなく、一週間程度先の、大きな被害をもたらす可能性がある低気圧の予想は、進路や数値を外す傾向がありました。このことについて以前書いたブログにも書いています。

その天気予報は信頼できるの?/各国の台風進路予想の精度について調べて比較してみた結果は…

ただ外すだけなら被害が大きくなる外し方もあり得るでしょうが、上記3つの要因から勢力がそこまで深刻な状態にならないと判断しました。

その後、9月1日、台風予測に関してはおそらく世界一の精度と言える米海軍運用の統合台風警戒センター(JTWC:英語サイト)、信頼度の高い気象庁がそれぞれ進路予想を発表しました。

以下JTWCは9月1日18日本時、気象庁は9月2日18日本時の台風進路予想のスクショを貼っておきます。気象庁は9月1日に予想を出していたはずですがスクショを撮り忘れていました…

引用:JTWC
引用:気象庁


この二つの予想はほぼ同じで、ECMWFやGFSが当初出した予想とは違い、始めから九州または東シナ海を目指す進路です。

その後の動きはニュースやネットを通して見ていましたが、大騒ぎをしていた人たちは予想が変わってきていることにはほとんど触れていません。

ちなみに何かしら気象警報めいたことをいうと例え気象予報士であっても気象業務法第23条に抵触する場合があります。

気象業務法第二十三条 気象庁以外の者は、気象、地震動、火山現象、津波、高潮、波浪及び洪水の警報をしてはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。

気象業務法

つまり、事前に伊勢湾台風なみ勢力で直撃するというのは、勢力=風速に触れており気象の警報となるので違反です。

被害状況

被害状況を経済産業省HPにある通過直後9月7日の報告を確認しますと
最大供給支障戸数だけでみると

  • 沖縄電力管内   3930戸(9月6日12時)
  • 九州電力管内464,000戸(9月7日4時)
  • 四国電力管内 15,400戸(9月7日4時)
  • 中国電力管内 47,050戸(9月7日5時)
  • 合計約   530,380戸

となっています。

また朝日新聞の9月8日の記事を引用すると

  • 死亡2名
  • 行方不明4名
  • 重軽傷者108名

死亡者2名は佐賀県と鹿児島県ですが、安否不明の4名については宮崎県で大雨で発生した土砂災害によるものです。

では気象観測結果を9月11日の国土交通省発表資料から見ていきます。

出典:国土交通省発表台風第10号による被害状況等について(第10報)

期間中、最も雨が降ったアメダス地点は宮崎県東臼杵郡の神門で599ミリで、他にも宮崎県えびの市、東臼杵郡にある椎原、諸塚、児湯郡西米良などの地点が400ミリ以上降っています。そのほとんが6日から7日にかけて24時間の降水と見られます。

出典:国土交通省発表台風第10号による被害状況等について(第10報)

風速については、平均風速と瞬間風速で最も強かったのは長崎県長崎市野母崎の9月7日の44.2m/s(午前1時55分) 瞬間風速59.4m/s(午前1時45分)となっており南東方向から吹いているとなっています。(近隣の住民の方は夜中の暴風で恐怖されたと察します。)

当時の長崎県のアメダス観測9月7日午前2時の状況をスクショしたものを貼っておきますが、野母崎の地形を見ると東シナ海に突き出すような岬になっていますので、地形により風速が大きくなったと考えられます。

赤丸で囲んだのが野母崎(引用:気象庁

自慢にはなりませんが私は自衛官時代の観測経験の中で、最大瞬間風速50m程度は実際に体感しています。軽くジャンプしたつもりでしたが人って翼がなくても飛べるのかと恐怖したのを覚えています。

サーファーとして気になった波高についても見ていきます。

出典:国土交通省発表台風第10号による被害状況等について(第10報)

鹿児島県屋久島で10.4m、宮崎県日向沖で11.4m等九州沖縄で大きな波高になっていますが、静岡県御前崎で6.6mとかなり離れた海岸でも大きな波になっているようです。台風が遠い位置にあるから海は安全とは言えないことがよく分かります。

以上から昨年関東に大きな被害をもたらした台風15号と比べると、風は強いが、降水量は比較的少ないと判断できます。

参考に2019年台風19号の降水量と風速の観測値のスクショを貼っておきます

出典:令和元年台風第19号等による被害状況等について(第50報)
出典:令和元年台風第19号等による被害状況等について(第50報)

災害による人的被害等は19号の方がかなり大きいですが被災地が関東という人口が多い地域なので比較になりえないかとは思います。

まとめ(ファクトフルネス)

  • 不安を煽る情報はより早く、より広く拡散しやすい
  • 事前のECMWFやGFSの予想を見て大騒ぎをした人たちの妄想の割に実際の被害は台風19号に比べ小さかった
  • 気象庁およびJTWCの予想精度は高い
  • 災害は事前の備えと対策が必要かつ大事

不安が広まりやすいのは既に述べていますが、そもそも不安を煽る人達は

「自分は大丈夫。でも騒げば”イイね”や”RT”してもらえる」

という心理が働き、更に焚き付けようとします。

これは同調しない方が難しいとは思いますが、一度「本当かな?」と調べるのが良いでしょう。

とは言っても気象については知識が必要ですし、経験もなければ難しいので気象予報士ではなく気象を研究をしている専門の団体やその道のプロが個人の発している情報を見つけられれば良いのかなと思います。

何よりも事前に防災グッズ等の準備を日頃からしておくことが防災士としてのアドバイスとなります。

繰り返しますが、例え気象予報士としても、気象庁以外の者が警報を出すことは気象業務法違反として処罰される可能性があります。

令和元年(2019年)台風15号(ファクサイ)の被害から改めて考えるサバイバルテクニック

付け加えですが台風10号について私の解析の呟きを貼っておきます。

追記

2020年9月16日、気象庁から「令和2年台風10号における検証(速報)」が発表されました。内容についてはスクショを貼っておきますが、発達が抑えられた理由として乾燥した空気が流入したとあり、これは上空の寒気移流が下降流になった結果だと言えます。

降水がそれほど強くならなかったのは移動速度が速く、長時間強い雨が降り続けなかったことが挙げられています。

移動速度が早かったので潮位が高くなる時間とズレたことが要因のようです。

引用:気象庁HP

台風だけではありませんが、自然災害で避難を余儀なくされることは間違いなくおきます。

避難のために役立つ非常用を持ち出し袋などは余裕があれば準備しておきたいですよね。

参考に楽天市場の商品リンクを貼っておきますので良かったら覗いてみてください。

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以上です。