「バシャ、バシャ、バシャ」
ショートボードでサーフィンをやる人に結構な割合で見るテイクオフ時のバタ足なんですが、あれは効果があるかないのかについて、海上自衛隊時代に身につけた水泳経験とボディボード経験を踏まえ、考えてみようと思います。
バタ足をやるほとんどのサーファーはテイクオフのタイミングが若干遅い
私の水泳経験から、サーフボード上でクロールのようなバタ足をすると、体の軸がブレてバランスが取れず、テイクオフが遅くなると思っています。
現にバタ足をやるほとんどのサーファーはテイクオフのタイミングが若干遅い傾向が見られます。
水泳におけるバタ足の役割
論文から
話は少し脱線しますが、水泳のバタ足について気になる記事があります。それは2018年7月の朝日新聞デジタルの記事で、「クロールのバタ足、速くなる効果なし むしろ水の抵抗増」(記事はこちら)と言う筑波大学の論文を取り上げた記事が掲載されました。
しかし、その後筑波大学の関係者から補足のコメントがSNS上にあったようでそれを読んでみると
この実験は、下の参考図のように、計測のために泳者の前後の高い位置から腰に巻いたベルトにワイヤーのようなものがつけられているため、体の動きを制限しバタ足による姿勢の維持、ひいては上半身の動きを効率よくバタ足の推進力に変えるための動きが制限されてしまい、結果としてバタ足が抵抗になっていたと関係者は語っています。

実際のところバタ足は、クロール泳法において空中に腕をあげた際に下半身の沈み込を防ぎ水面付近に維持する作用があるため、抵抗になるとは一概に言えないということです。
バタ足をしない実験のときには泳者の体を水平に保つため、股の間にブイ(ウキ)を挟んでいたようです。下半身が浮くのは水泳経験上かなり楽でスピードが出ます。
海上自衛隊時代に実際に見たこと
私は元海上自衛官で、訓練で泳いだり、後輩指導も行った経験があります。
ある日、インターハイ全国大会でもそれなりの成績だったという隊員が、バタ足だけで50mを40秒で泳いだことに衝撃を受けました。
当時の私は50mを平泳ぎで42〜3秒程度で泳いでいましたが、部隊では平泳ぎを40秒前半の速さで泳げる隊員は1割もいません。にも関わらずバタ足のみで速い泳ぎをする人に驚かされました。
私はバタ足が苦手なこともあり50mは2分ぐらいかかります。
これが多くの人にとってはバタ足のみで推進力を得るのはかなり難しいと思う根拠です。
参考に、海上自衛隊体力基準中にある水泳能力測定の級別タイムの表のスクショです。(誰だよこの雑なスキャン載せたやつ…)

私が最後に測ったのは40歳になる前でしたが、自由形(クロール)は32秒、平泳ぎは上に書いた通りで総合で2級でした。
水泳専門でやっている人は50メートル自由形なら26〜8秒程度で泳いでいます。インターハイ上位なら25秒以内といったところでしょう。
ショートボードのバタ足効果は状況によりけり
話を戻して、実験のように姿勢が制限されている状態はショート、ロング関係なく、うつ伏せになっている状態とほぼ同じと考えられます。
違うのはサーフィンの場合は水泳に比べ水面上に体のほとんどが出ていることです。
したがってサーフィンのパドル時は、水から受ける抵抗はかなり小さいと考えられ、一方バタ足をしようにも腰から腿にかけてはボードが邪魔になり可動域が制限され膝から下の動きしか使えないとも考えられます。
もし最もバタ足効果が得られる状況を考えるなら、さし乗りというテクニックです。
テールを水中に沈めた際にボードの浮力で体が一気に持ち上げられますが、この時にバタ足を使えば早く体を水面に持ち上げられるでしょう。
ボディーボードのテイクオフはこのやり方で波に乗ります。ところが上手くいかないのが現実です。
世界のトッププロ選手でもテイクオフ時にバタ足はやっています。しかし根本的にクロールのバタ足とは別物だと感じます。
クロールのバタ足は腰を捻って股関節、膝、足首しなやかに連動させてキックを行います。膝が大きく曲がることはありません。
対してサーフィンのテイクオフ時は膝と足首の関節しか使えません。そして膝が曲がっています。
テイクオフ時に初速をえるバタ足は、空中に浮いた足を後ろに振る動作で上半身が前へ進む推進力をボードに伝えるからです(作用反作用の効果)。
また、初速が無いうちの数回のバタ足は推進力を得られる効果があると考えます。これも経験上、実感がありますし、だからこそ上級者も波の状況に応じてバタ足を数回ほど打つと考えます。
推進力が得られない典型的な例は、クロールのバタ足のように数秒間連続してやる場合で、上半身がブレてテイクオフにおける安定性を失うのと、ノーズを上げてしまい抵抗を生み出し結果的に初速を得られるまで時間がかかります。
他にもバタ足が失敗する例は、急激に掘れ上がってパドルを1、2回するだけでテイクオフできる波の状況です。
この場合は最初から初速が十分に得られるので、バタ足をしながら波を追いかけると思った以上スピードがつき波の前に出てしまい、パーリングの原因となります。
掘れ気味の場合は思い切ってバタ足せずボードのレールをしっかり掴みテイクオフ姿勢の安定性を優先すると、巻かれることなくテイクオフできる確率が上がります。
バタ足をしないテイクオフは美しい
世界トップクラスのサーファーでもテイクオフの際、常時バタ足をする人は限られています。
中級者程度までならバタ足せずにテイクオフできるようテクニックを身につけておくことをお勧めします。
理由はバタ足をしないテイクオフは美しいということ。
これは現在のサーフィン大会で勝つためにも、フリーサーフィンでもスムーズなテイクオフとして評価をされています。
余談・そもそも論としてのバタ足の使い方
完全に余談ですが、20年以上前に私がサーフィンを始めた頃は、大会において波に対するプライオリティ(テイクオフの優先権)が明確じゃなかった時代でしたから、公式試合でも二人が同じ波に同時にパドルを開始する場面をよく見ました。
ひどい時はお互いの体がぶつかり合いながらも、どちらが先にテイクオフするか競い合っているシーンを何度も見ました。
当時はフリーサーフィンでも当たり前だったので、私も波を取るためにそのようにパドルをしていることがありました。
当時は一瞬でも早く立ち上がることが勝つための近道で、そのためにバタ足を使うのは相手を邪魔するためのテクニックとしても重要でしたが、現在は体をぶつけ合う試合は見ません。
サーフィンも時代で変わっていきます。
以上です。