クジラを助けようとした話/ストランディングの体験

(2023年4月4日)

2012年3月17日に地元の青谷(あおや)海岸にクジラの仲間のオウギハクジラ(wikipediaの解説)が流れ着きました。そのハクジラを助けようとした時の経験を書いていきます。

結論としては、何度か泳げる深さまで連れいて行ったものの助けることができず死んでしまいました。

簡易的な記録はこちらの下から3番目の欄です。

目次

クジラが打ち上げられている

サーフィンをしようと地元の海を通りかかった時、波打ち際に大きな黒い丸太のようなものを見つけました。丸太にしてはデカいし何かヒレのようなものが揺れていたので気になって車を停め近くまで見に行ってみると姿形はイルカのようでしたが、今まで見たことあるイルカより随分大きく、知識として持っていたハクジラじゃないかと直感で判断しました。

頭付近にある呼吸をする噴気孔から時折、海水を吹き出していて生きていました。ちょうど同じタイミングで他の人たちも近づいてきましたが、3月の海で水温は低く、普通の服では海に長時間はいる状況ではありませんでした。

救助を試みる

すぐに車に戻り積んでいたサーフィンの冬用ウェットスーツ(正確にはセミドライスーツ)に着替え、念のため作業用グローブを付けてハクジラが自力で泳げると思われる深さまで誘導しようと海に入りました。続くように知り合いのサーファーも同じようにウェットスーツに着替えて、力を合わせて沖に向かわせようとハクジラの体を押し始めました。

弱っていた様子でしたが、胸ビレや尾ヒレを動かしていたこともありなんとか自力で泳げる沖まで出せればなんとかなりそうと、この時は思いました。

後の新聞の記録でみると体長484センチとそこまで大きくない感じがするかと思いますが、実物は普通車より一回り大きいサイズと感じました。クジラの体の下側は海水に浸かっていたのでなんとか少しずつ沖に動かすことができました。2人のサーファーがヒレ部分を押し、私が口先を持って引っ張りました。

口周りはフジツボがあり素手はケガの危険性大

ハクジラの口先を持った時に気付いたことは、イルカのように細長くなっている部分にフジツボのでかいヤツがついていて、そいつがイカの足のようなピンク色の触手のようなものを出していました。

始めはこの触手がロープに見え、絡まったことによる衰弱かと思いましたが、20センチ程度で絡むほどの長さはありませんでした。それでも海岸にいる藤壺の触手よりは断然ながいですし、ピンク色なので驚きました。そして殻が鋭く、もし素手で触っていたら掌がズタズタになっていたでしょう。

作業用の防刃手袋を車に乗せておくのが良さそうとも思いました。


噴気孔からの飛沫は要注意

クジラやイルカの頭頂部には呼吸のための噴気孔と言われる鼻の様な役割の器官があります。たまにここから潮を噴き出す映像を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

クジラを押しながら、噴気孔からでる潮が何度かかかりました。ちょっと潮臭く、直感的に何かの病気になるかもと頭をよぎりましたが、それは体調不良になってから考えようと押し続けました。

そしてなんとかクジラが自力で泳げる深さまで到達すると、ゆっくり沖に向かい始めました。助けられたと思いましたがしばらくすると、また浜に向かうように泳ぎ始めました。

何度も海に返すもまた浜に向かってくる

打ち上がる前にもう一度沖に向かうように押しましたが、同じようにしばらくしてまた浜に向かってきました。

この後、地元の漁師さんにも手伝っていただいて結構、沖まで連れていったんですがやはり浜に戻ってきてしまいました。

手の打ちようがなくなりました。最期は行政で浜に一旦埋めて骨格標本として県立博物館に持ち帰ったとのことです。

ネットで調べてみると、クジラの場合は海岸に上がってしまうと自分の体重で内臓が潰されて、内臓破裂のような深刻なダメージを負うようです。また事例として何度も浜に戻ってしまうことも見つけました。

噴気孔から出る潮は、人間にとって未知の感染症になるおそれがあるようです。海から上がってすぐに顔を洗ったりうがいをしたお陰か、感染症のような症状は一切出ませんでした。

また、たびたび尾ヒレを勢いよく振っていたので当たりどころによっては救助する側に重傷を負う可能性があるかもしれません。尾ヒレに近づかないように声をかけながら押すように心がけました。

加えて筋トレしていた成果を発揮できたとも思いました。並みの筋力では到底動かせなかったと思います。

地震との関係はある?

確かにこの後の2012年3月27日、岩手県東方沖でマグニチュード6.6、観測地点おける最大震度5弱の揺れが発生しましたがクジラの打ち上げれたのは鳥取ですし、10日も経過しているので関連はなさそうです。

潜水艦等のソーナーが原因?

私は海上自衛官出身である程度潜水艦の知識も人よりはあります。ただしあくまでネットで調べれば出てくる程度の知識ですが。

たまにクジラやイルカがこうして打ち上げられる理由に潜水艦のソーナーが原因という人もいますが、これも日本近海、特に日本海や東シナ海では考えにくいでしょう。

ソーナーは、簡単にいうと海の中で音を鳴らして敵潜水艦の位置を探す索敵武器にあたります。いわゆるアクティブソナーと言われるものと、何も音を出さず付近を通る船舶、艦艇のスクリュー音をキャッチして追跡するパッシブソナーというものがあります。

アクティブソナーは位置がバレる=沈められる

海軍の常識で、潜水艦がアクティブソナーを使うのは最後の最後、高確率で位置が分かり魚雷で確実に沈められると言われています。

潜水艦の行動が解析され追跡される

仮に日本海でアクティブソナーを使うとどうなるかというと、日本海を航行するさまざな国の潜水艦、艦艇に位置がバレます。そして追跡されるとスクリュー音のデータが取られます。

スクリュー音は指紋の様なもので、どの潜水艦か特定されてしまいます。そうなると日本だけでなく世界の潜水艦保有国の探知能力からすると、出港してからずっと行動を把握されている様になります。つまりいつでも沈められる可能性が高いとなります。

結論としては潜水艦のソナーは可能性が低いと考えます。

おわりに

クジラを助けることは、2度と経験することがないだろうと思います。

せめて、彼が、またクジラに生まれ変わっていますように。

以上です。